写真展「三里塚-大きな(小さな)物語の歴史」

名古屋のanother world infoshopで、写真展を開催します。地元の愛知県では初個展です。2021年から制作中の三里塚闘争をテーマにした作品「大きな物語の歴史」を少し改題して展示します。


➖ステートメントその1「大きな物語の歴史」➖

この作品は、1966年から千葉県の三里塚で繰り広げられた、新東京国際空港(現・成田国際空港)建設反対運動の歴史を示したものである。「三里塚闘争」と言い表されたその運動は、当時の学生運動や新左翼の活動家が関与、加担した事で過激化し、死者を出す惨事と化した。70年代以降、横行する過激な運動により大衆の支持を失う一方、更に運動が先鋭化し、テロ・ゲリラが多発した。90年代には、政府と空港反対派との対話により、反対派住民の大半が旗を降ろしたが、今でも一部住人や支援者が闘争を継続している。

1979年、哲学者ジャン=フランソワ・リオタールは、マルクス主義などの既存の知的体系を「大きな物語」として批判し、ポストモダン時代の到来を先見した。だが、未だ「大きな物語」は再生産され、現在でも生き残っている。むしろその影響力が徐々に増しているのではないだろうか。そのメタ物語の是非はさておき、現代に生きる私達はその「物語=歴史」を批評的に分析する必要性があるのではないか。

変容した風景と、闘争時代の風景の間には歴史的「距離」がある。その距離とカメラ/写真というレイヤーを媒介して見ることで、一種の批評性が獲得できるのではないかと考えた。それは「物語=歴史」を風景を通じて見る事により、次世代に繋ぐという意味での「問い」を投げかけるという事である。


➖ステートメントその2「小さな物語の歴史」➖

三里塚闘争をどう捉え、再検証していくか?作品制作が進むほど、私の闘争に対する考えが変化していった。

当初は、「理想としての中立」を標榜し、空港反対派か空港公団(空港会社)のどちらにも与する事がない状態を望んでいた。しかし、世界の様々な社会運動の歴史をリサーチしていくにつれ、私の立場は歴史に対してとても暴力的で、政治的に漂白された意味のないものではないかと考えるようになった。運動の主体になることがない、どこまでも外部でしかないドキュメンタリー写真では、社会は変革しないのではないか。

しかし、往年の小川プロが取り組んだように、「加担するドキュメンタリー」を繰り返す事はできない。三里塚闘争は、双方に死者が出るほど過激化し、一部支援者はその殺人行為を推奨していた。私は積極的な人間に対する暴力は、長期的には意味をなさないと考えている。言うまでもなく、政治権力に対しての受動的ではない非暴力直接行動は肯定したいと思う。

また、今まで私は三里塚闘争を20世紀型のイデオロギー闘争だと考えてきた。しかし、闘争に関わってきた方に話を聞いたり、当時の文献を読むと、闘争において一番重要なのはイデオロギッシュな部分ではなく、(安直なヒューマニズムを避ける為、このナイーブな言い方は避けてきたが)人間の「生」なのではないかと考えるようになった。マルクス主義のような「大きな物語」ではなく、農民の個々の抵抗や語り等の「小さな物語」こそ重要であり、今までの作品に足りない部分だと考えるようになった。

今後は、「大きな物語」に収斂されないような、「小さな物語」を中心とした、表現や行動を目指し、三里塚闘争の再検証を作品の鑑賞者と共に進めていきたいと思う。


※金土日のみオープンします。曜日ごとに開催時間が異なりますので、ご注意ください。

会期:2025年9月26日(金) - 10月5日(日)
金土日のみ開催/金 14:00-21:00/土 12:00-19:00/日 12:00-17:00
会場:Another World Infoshop
イベント:開催記念トークイベント「三里塚から読み解く現代の社会問題」
2025年10月3日 (金) 19:00〜 予約不要

Another World Infoshopは、名古屋・今池にあるインフォショップです。フェミニズムを中心に、急進的な思想のZINEやグッズを取り扱っています。

地下鉄 東山線・桜通線 今池駅4または6出口より徒歩約7分
(〒464-0074愛知県名古屋市千種区仲田2-19-11 はとビル2F)

連絡先:another.world.infoshop@gmail.com
https://awi.nagoya/

HARUTO SAKATA PHOTOGRAPHY

写真家 佐方晴登のウェブサイトです。 Website of photographer Haruto Sakata.

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